「イタリアの文化・産業から「有用性」を考える」
趣旨:日本においても産業の「イタリア化」が長年、指摘されている(マクロの経済的な国力としては衰退過程にある一方で、嗜好品を中心にきわめてすぐれた技術に基づいた製品を誇る中小企業が国際的にも高い競争力を保つ)。一方でイタリアは歴史的にも突出した芸術家や科学者を輩出してきた。
今回はイタリアの強みの背景をなす文化や産業、社会制度について異なる領域の専門家が集い、講演および議論を行う。同時に、「有用性」の概念そのものについても問い直す機会としたい。
その3「イタリアのワイン―― 怠惰と爆発」
講師:宮嶋勲先生(ワインジャーナリスト)
概要:ワインはテロワールの産物だと言われます。同じ品種で造られたワインでも産地によって香りや味わいが異なるので、テロワールを反映する飲み物だというわけです。テロワールという概念には気候、土壌、地形などの自然条件だけでなく、その土地の歴史、文化、住民の好み、感性などが含まれます。それらもワインの味わいに大きな影響を与えるからです。イタリアワインにも、イタリアの自然条件(温暖な気候、恵まれた日照、地中海、アルプス、アペニン山脈など)だけでなく、イタリア人の感性が反映されています。紀元前8世紀に古代ギリシャ人が南イタリアを植民地化した時にイタリアをエノートリア(ワインの大地)と称えました。そのように恵まれたワイン産地イタリアがなぜフランスに大きく後れを取ったのか、また1980年代の急速なイタリアワインの品質向上(イタリアワイン・ルネッサンス)はなぜ起こったのか。「イタリア的」なるものが世界的に評価されるようになった背景を、ワインを通して探りたいと思います。