『文化をめぐる人文と工学の研究グループ』特集号である「生研研究」第73巻4号が発刊されました。特集に寄せた戸矢理衣奈准教授の巻頭言をご紹介します。
東京大学生産技術研究所「文化をめぐる人文と工学の研 究グループ」は2020年4 月に発足した。構成員は野城智 也教授(5部)を代表に,石井和之教授(4部)、今井公太 郎教授(5部)、川添善行准教授(5 部)、志村努 教授(1 部)、 本間裕大准教授(5 部),松永行子准教授(2 部)そして 筆者で文系出身の戸矢理衣奈准教授(5 部) である。
昨年刊行された「生産研究」(第 72巻5 号)では発足に 際して「『文化をめぐる人文と工学の研究グループ』発足 と新たな展開に向けて」と題した特集を組んで頂いた。ここでは構成員の先生方から主にそのご専門領域において文 化の側面に焦点をあてた形で展開可能性を論じたご寄稿を 頂いた。さらに、実務家の参加を得ての「文理実」による「文理融合」の推進をはじめ、グループの基本的な活動方 針やその特色を紹介した。
刊行後に学内外から多くの反響を頂き、様々な具体的な 展開にも繋がっている。例えば特集をご覧になられた人文 系の三名の先生方をお招きしての「人文系からの提言」と 題した「文化×工学研究会」が実施された。「工学」とは 何であるか、工学の民主主義への貢献といった壮大なテー マについて議論が白熱し、異分野間の継続的な議論の必要 性に改めて共感が集まった。東大新聞で活動する、文科三 類からの「理転」を目指しているという学生さんが特集を熟読されて取材に来られたこともあった。
今回の特集号は、グループ発足後一年間の活動報告であり、以下の構成をとっている。
最初に構成員の先生方によるご寄稿である。昨年と同様 にそれぞれのご専門を「文化」「社会」の視点からいわば俯瞰した形でアプローチをされたご論考を頂いた。野城智也 教授「建築分野におけるカーボン・トレーディング導入の 道筋・意義」、石井和之教授「歴史を記す黒と青の科学技術」、 志村努教授「音程の物理」、本間裕大准教授「広い視野を もつ重要性と難しさ-社会最適と利己的合理性との乖離 -」の四編である。
続いてグループの活動として 2021年2月 20日に実施し たオンラインフォーラム「音楽の可能性」の報告を掲載し た。岡田暁生教授(京都大学人文科学研究所)にはフォー ラムを経て改めてご寄稿「音楽と工学の美的なかかわり方 を考える」を頂戴した。宮崎徹教授(大学院医学系研究科) からは当日を振り返るという形での対談のご提案を頂き、 コーディネータ及び司会を務めた筆者がご講演やディスカ ッションをさらに深める形でお話を伺った。
当グループの結成の契機となった「文化×工学研究会」のご講演からは,特に話題を集めた 2 名の先生からご寄稿 を頂いた。上述の「人文系からの提言」でご登壇を頂いた 小林康夫名誉教授「工学のリベラルアーツの夢」と横山禎 徳特別研究顧問「実践知としての「社会システム・デザイ ン」」である。また,研究会のこれまでのご講演の要旨掲載のご希望をかねてより頂戴している。そこで 2019-2020 年度開催分について筆者が「『文化×工学研究会』実践と 報告(2019-2020 年度)」としてまとめることとした。
なお、「文化×工学研究会」は東大 EMP 修了生有志主 催のもとで生研の協力を得て、現在までほぼ毎月、開催さ れている。文化や歴史、さらに芸術をはじめとした感覚 ・感性に関連する領域の最前線で活躍される研究者、実務家、芸術家などを学内外から講師として招聘し、本質的に 工学と関連するテーマについて講演を頂いている。対象は東大全学の教職員とEMP 修了生であり,実務家の参加による、いわば「文理実」の連携を特色とした文理融合、社会連携の同時推進の場ともなっている.
当グループでは「文化×工学研究会」にて生じた継続的な議論や展開が求められるテーマについて発展的に扱うことも目的としている。「音楽の可能性」もそうした経緯か ら企画されたものである。