実施報告

開催日: 2021年7月15日

第18回 イタリアの文化・産業から「有用性」を考える(その1)

投稿日:2021.06.11 カテゴリー:実施報告

「イタリアの文化・産業から「有用性」を考える」

趣旨:日本においても産業の「イタリア化」が長年、指摘されている(マクロの経済的な国力としては衰退過程にある一方で、嗜好品を中心にきわめてすぐれた技術に基づいた製品を誇る中小企業が国際的にも高い競争力を保つ)。一方でイタリアは歴史的にも突出した芸術家や科学者を輩出してきた。
今回はイタリアの強みの背景をなす文化や産業、社会制度について異なる領域の専門家が集い、講演および議論を行う。同時に、「有用性」の概念そのものについても問い直す機会としたい。

 

その1「イタリアの音楽――融通と優美」

講師:岡田暁生先生(京都大学人文科学研究所教授)

概要:一口に「クラシック」といっても二種類あります。アルプスの以北と以南のそれです。日本における「クラシック」のイメージはもっぱら前者、とりわけドイツ語圏のそれによって形成されてきたといって過言ではありません。しかし本来ヨーロッパにおける「音楽の国」はドイツでもオーストリアでもなくイタリアでした。ルネサンスからバロックにかけて、国力の衰退に反比例するように、イタリアはいちはやく音楽を「一大輸出文化産業」に仕立てました。音楽の作り方でもアルプス以北と以南では対照的です。イタリア音楽で重要になるのは、スコア指示を墨守せず「融通を効かせる(=「テキトー」にやる)ことであり、ドイツ系音楽のシステム思考の対極といえます。今回は「システムならざるシステムの強さ」ということを念頭に置きながら、イタリア音楽の魅惑について語りたいと思います。